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2025.05.04
退職代行サービスは味方かリスクか?~個人情報保護の視点から考えるリアルストーリー~
第1章:退職を決意した午後
「もう無理かもしれない……」
佐藤美咲さん(仮名・28歳)は、神奈川県内のメーカーに勤めて4年目の春、ノートPCの前で肩を落としていた。
毎日の長時間労働、終わらない業務、パワハラまがいの言葉。上司に退職の意志を伝えようとするたび、話をはぐらかされてきた。
そんなとき、友人から聞いた言葉が彼女の頭に残っていた。
「退職代行、使ってみたら? あっという間に辞められるよ」
スマホで「退職代行」と検索してみると、たくさんのサービスがヒットする。LINEやメールで簡単に依頼できるらしい。
「こんなに簡単に辞められるなら……」
その夜、美咲さんは決意を固めた。
第2章:会社に届いた一本の連絡
翌朝。美咲さんの勤務先には、一本の電話がかかってきた。
「お世話になります。退職代行サービスのA社です。御社で勤務されている佐藤美咲さんより、退職のご意志を受け、代行してご連絡しております」
人事部の担当者・井上は驚いた。
「は? 本人じゃなくて第三者? 本当に本人の依頼なのか? そもそも、本人の情報を勝手に他人に話していいのか……?」
混乱しながらも、退職代行業者に対応せざるを得なかった。
第3章:退職代行は何者?個人情報はどう守られる?
退職代行とは、その名の通り、従業員に代わって企業へ退職の意思を伝えるサービス。
しかし、その立場にはいくつかの“グレーゾーン”がある。
法的には「本人の意思の伝達」にとどまる行為であれば、退職代行業者(弁護士資格がない業者)でも代行可能とされている。
だが、その際に問題になるのが、**「個人情報保護」**の観点だ。
たとえば会社側が退職代行にこう言われたとする:
「給与明細を送ってください」
「離職票や源泉徴収票を代理で受け取ります」
「社会保険の資格喪失手続きを急いでください」
これらはすべて、“本人の同意がある”ことが前提で情報をやり取りすべき内容だ。
第4章:個人情報は誰に、どのように渡すべきか
人事部の井上は、退職代行業者からの連絡に慎重に対応しながら、社内の個人情報管理規定を確認した。
そこにはこう書かれていた。
「個人情報の第三者提供は、原則として本人の書面による同意を得た上で行うこと」
電話やメールで「依頼されてます」と言われただけでは、情報を提供すべきではない。
本人から直接、書面や電子署名付きの同意が確認できるまでは、たとえ退職代行であっても、給与・雇用・健康保険などの重要情報は開示できない。
第5章:美咲さんの側の誤解と気づき
美咲さんは、退職代行業者から送られてきたLINEの返信に任せきりだった。
「何もかも任せられるって書いてたし、会社にもちゃんと伝わってるはず……」
しかし一週間後、会社から自宅に「離職票送付にあたってご本人確認をお願いします」という文書が届く。
「あれ? 代行が全部やってくれるんじゃなかったの?」
そう思って業者に確認すると、返ってきたのは冷静な一言だった。
「公的書類の交付や個人情報に関するやり取りについては、ご本人による同意や直接対応が必要となります」
ようやく、美咲さんは理解した。
第6章:退職代行と個人情報、両者の“役割”を理解する
退職代行はあくまでも、「本人の意思を伝えるツール」であって、法的代理人ではない(※弁護士を除く)。
本人が「どこまでを任せられるか」「何が自分でやるべきか」を理解していないと、個人情報の取扱いにおいてリスクが発生する。
企業側も、退職代行からの依頼だからといって、安易に個人情報を渡すのはNGだ。
最終章:退職をスムーズに、そして安全に進めるために
佐藤美咲さんは、最終的に自身で会社にメールを送り、離職票や保険証返却などの手続きを完了させた。
「退職代行は頼ってよかった。でも、全部任せきりにしないで、自分で動くところも必要だったな」
まとめ:退職代行と個人情報保護のポイント
視点 対応ポイント
従業員(退職者) 退職代行に依頼しても、個人情報に関する手続きには自分の確認・同意が必要
企業側 本人の同意が確認できない限り、退職代行業者に個人情報を渡してはいけない
両者に共通すること 個人情報のやり取りには「正当な目的」と「本人の確認」が必須
退職代行は、現代における一つの「出口戦略」。
ただし、個人情報保護というもう一つの法律のレールを無視しては、正しく走り抜けることはできません。
「退職の自由」も「情報の保護」も、どちらも守りながら、あなたらしい次の一歩を踏み出しましょう。
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